第二章
ザハークが、エルアン宮殿に消え数日…
時間の振動とも感じられた大地の揺れの後、それはハッキリとわかる「ズンッ」と響く重い衝撃が、ダイアロス全土に拡がった。
ルーチェ
ミスト
「ミスト様!」
「えぇ…、ヴァルグリンドの巣穴から、とても大きな気配が感じられます…

エルアン宮殿が、時の流れに解放されたのでしょう。」


その後すぐに、ミスト、ルーチェの所へ研究員からの報告が告げられた。
時の鎖に繋がれ、現世と繋がりを立たれた古き民の地は、再び時の歩みを始めたのだった。

ラスレオ大聖堂 ───

エルアン宮殿の解放報告の後、大聖堂にはザハークを追うために
開かれたエルアン宮殿へ向かう人員が集められていた。
ルーチェ


クレイトス



ルーチェ
「皆様、エルアン宮殿への道は開かれました。

しかし、むやみに足を踏み入れてはなりませんわ。
慎重に調査を進め、そしてザハークの所在を明らかにいたしましょう。」

「まずは先遣隊と私で、宮殿内部の調査を行う。

文献やアルフレッドの情報、それにザハーク本人の言葉も信じれば、
エルアンを崩壊に導いた何か、そしてエルアンを襲撃した亜人が、時の流れに復活を果たしているだろう。」

「後発の方々は、補給の準備を整え、内部の安全が確保されましたあとに、進んでくださいませ。

それでは、皆様が無事に帰られることを祈って…
ラル・ファク、イル・ファッシーナ。」


こうして、クレイトスを含むアルケミスト達は、ザハークを追って、エルアン宮殿へと進んでいった。

エルアン宮殿 儀式の間 ───
ザハークとルーチェを含むアルケミスト達は、ついにザハークの居所を見つけ、その内部へと踏み込んだ。
クレイトス
ルーチェ
「ここが…」
「宮殿内の書物に記されていた、混沌の世界と繋がった『儀式の間』… ということでしょう。

かつてユンを追って向かった Chaos Age と同じ、死と生が入り混じった、
禍々しい力を感じます…」



ザハーク
クレイトス
ザハーク

ルーチェ



ザハーク


ルーチェ
ザハーク
「ようこそ… 人間達よ…… 『我が』エルアン宮殿にようこそ。」
「ザハーク、ここが貴様の悪しき野望の果てか!」
「悪? 何を持って悪とする。 私のやろうとしている事は創造だ。 エルアンに限りない繁栄を・・・

いや、エルアンなど小さな存在に捕らわれず、世界を繁栄に導くのだ。」

「あなた様? 神にでもなったつもりですか。

繁栄とは、多くの人民を正しくより良い道へ導いてこその言葉です。
多くの人々の生を奪い奇跡の力へ代えるなど、創造や繁栄ではありません。
ただの虐殺ですわ!」

「理想論だな。犠牲無き繁栄など、あるものか。君達もそうして、繁栄へと結びつけたのだろう?

君達のあの地は何だ? 他民族や仲間の亡骸の上に創られた繁栄ではないのか。
それを否定できるのか?」

「…、あれはっ……」
「まぁよい、君達の考えは良くわかった。 だが私はやらねばならぬ。

夢半ばに消えた同志達のためにも、進まねばならんのだ。」


ザハークがそう告げると、突如儀式の間全体が揺れ始めた。
ザハーク
「今ここに、我らの野望を成就させる。」

ザハークの精神体が宙高く舞い上がると、空間が歪み、そしてそれは現れた。
クレイトス
ルーチェ
ザハーク

アルケミスト
「何だ、あれは……」
「………」
「この死を告げる混沌の生物が、世界の光を、生を奪い、我らが望む繁栄の力を集めるのだ。

そしてこの歪んだ空間では、君達の退路も意味は無い。」

「で、出口が!」


突如発生した空間の歪みにより、クレイトス達の退路は完全に消え去った。
そして儀式の間に現れた『首の無い異形の騎士』が、前衛に居たアルケミスト達を襲い始める。
アルケミスト
「な…なんだ…? ンンッ!? グハァ!」

首無し騎士に襲われるも、一つの傷も受けていなかったアルケミスト達が、突如として倒れ、絶命した。
そして絶命した、アルケミスト達から魔物達が生まれ出したのである。
クレイトス
ザハーク
アルケミスト
「この力は…!?」
「これこそが、真の原初の力。 そして全てを生み出す、創造の力の源だ。」
「う…、うわぁ!」

己に迫りくる抗えぬ死に直面し、多くのアルケミスト達は我を忘れ逃げ出し、残りは動く事すらできなかった。

ルーチェ

クレイトス
「皆様!落ち着きなさい! ここで纏まらないでどうします!

隊列を乱さず、あの魔物の間合いから離れるのです!」

「よし、いいぞルーチェ。 お前は皆を連れ、一度後退するんだ。」

クレイトスは、迫りくる魔物を自分の間合いに引き付けると、それらを一閃した。
しかし魔物達は、首無し騎士の力により、次から次へと生み出されていた。
ザハーク
クレイトス
ザハーク
「クレイトスと言ったな、もう諦めろ。 お前の死も、私が繁栄へと導いてやろう。」
「ふっ、たとえ此処で命尽きようとも、最後まで貴様たちと遊んでやるさ。」
「くはははははっ。面白い!気に入ったぞクレイトス! 実に愉快だ。

混沌の生物に対し、物怖じせぬ精神。 そしてその屈強な肉体!
そしてお前と言う存在が気に入った!」


ザハークの言葉に合わせるように、魔物達の攻撃が止み、一時の静寂が流れた。
クレイトス
ザハーク
ルーチェ
「で、何かくれるとでも言うのか?」
「全てをやろう。 私が手にする全ての力を。その代わりに、お前の身体を頂こう。」
「クレイトスッ!」


ザハークの中心から、大きな衝撃が拡がり、そして全てを飲み込み始めた。
クレイトス
ザハーク
クレイトス
「グ… ゥゥゥ……」
「全ての力を受け入れ、我が一部となれ。」
「ぐあぁあああ!!!」

ザハークの放った衝撃波が完全に収束し、その中心に黒衣の騎士が立っていた。

ザハーク
「さぁ、これで準備は整った。 全てを奪い、全てを創りだそう。

!? ググ… クレイトス、まだ力を残していたか。」


ルーチェ達に迫るザハークの身体が動きを停止し、黒衣の剣士からクレイトスの声が響いた。
クレイトス

ルーチェ
クレイトス
「ぐぅぅ、お前達… 今はまだ、俺はこいつを抑える事が出来る…

今の衝撃で、退路が復活したはずだ… 今は体制を整えるんだ。」

「クレイトス!」
「これは好機だ。この肉体を持つザハークなら、斬る事ができる。

準備を整えるんだ。 さぁ、戻れ… そして全てを断ち切れ!」



ルーチェ達に迫るザハークの身体が動きを停止し、黒衣の剣士からクレイトスの声が響いた。
ザハーク

ルーチェ
「まだ抗おうと言うか… よかろう、ならば君達の力を見せてみろ。

充分に力を蓄え、私達に挑むが良い。」

「……… 皆様、一度引きます! クレイトスの作った好機、不意にしてはなりません!

クレイトス、そしてザハーク、私達は必ず戻ります!
そしてあなた様の野望を止めて見せます!」


そして…




激戦の末、ザハークに乗り移られたクレイトスを倒す冒険者達。

ザハーク
「これが人間の力か… まさかこの力が打ち破られようとは!

まだ力が不十分とは言え、全てを滅ぼす力はあったはずだ…
だからこそ、この人間の想像を絶する力があるからこそ…
素晴らしい力が得られるたはずだったのだ…



イーゴ
ザハーク
イーゴ

ザハーク
「ザハークよ、満足したか? 時の流れは不変。貴様が何をしようと、未来が真実を語る… 」
「イーゴ… もう貴様の興味は、私には無いと言うことだな…」
「私は、この蘇った古代技術さえあれば、貴様の存在など、塵ほどの興味もない…

この混沌と現世の狭間で、虫ケラ共と一緒に朽ち果てるがよい。」

「クハハハハハ… きれいさっぱり見捨てられたか…

貴様が、この古代技術を使い、神の道を辿ると言うなら、それもいいだろう…
だがイーゴよ… ならば私は混沌の世界で、醜く…もがき…生き続けてやろう…
魑魅魍魎が蠢くこの地で… 我が精神が朽ちようとも、貴様に借りを返すその日までな!」


ザハークは多くの冒険者の見守る中で立ち上がり、目の前に現れた暗闇へ姿を消した。


ルーチェ
ミスト


ルーチェ

ミスト



ルーチェ

ミスト
「また尊い命を失ってしまいました… 私達は…私はいつまでこの過ちを続けるのでしょう。」
「ルーチェ… たしかに、多くの同志やクレイトス様は、もう帰る事ありません…

しかし、私達は前へ進まねばならないのです。
私達の踏み出したこの道を。」

「ザハークは言っていました… 犠牲なき繁栄はない、と。

確かにその通りかもしれませんわ… 私は認めることしかできません。」

「そうですね… 私達は犠牲になった者達の代わりに、今こうして生きています。

これを否定する事は、クレイトス様達を否定する事になります。
ザハークのやり方が正しい、と言うつもりはありませんが
どんなにこの進み道が険しくとも、後に引き返すことはできないのです。」

「ミスト様… その通りだと思います。 残された私達が、どのように生きられるか

どのような発展を見せられるか。 ここに全ての答えがあるはずですわ。」

「前に進みましょう。 彼等の魂を引き連れて… 進みましょう。」