■Scene.05. 混沌の使者■
【 決意 】
【混沌の扉より、小僧を連れ戻しに、使者が現れる】。

イーゴが残した言葉は、オリアクス、そしてルーチェの心に波紋を広げていた。

連れ戻される小僧とは、ユンのことではないのか?
何度ぬぐっても、その疑念が頭を離れないオリアクス。
一方、ビスク周辺に悪しき気の高まりを感じたルーチェは、混沌の使者の存在を恐れ、ラル・ファク神に祈りを捧げていた。

そんな中、デスナイトなどのマブの手先に追われつづけていたユンが、ラスレオ大聖堂へ助けを求めて転がり込む。

ルーチェは少年の疲れきった様子に驚きつつも、奥の部屋へと運んだ。
そして、薬湯を口に含ませ、休ませる。

ユンがラル・ファク教に保護されている――。
[暗使]メンバーより報告をうけたオリアクスは、あまりの出来事に目を瞬く。

(デスナイトに襲われない場所を…と、考えたか)

しかし、どうしてムトゥームへ戻ってこないのか?
その一点が、どうしてもわからなかった。
ユンが感じていた恐怖を、オリアクスは未だ知らずにいたのだ。

――その晩。

ビスクの周辺では、マブ神祭の時とは異なる強烈な気が渦巻いていた。

ラスレオ大聖堂で昏々と眠リ続けていたユンは、その気配を察して飛び起きる。

(イヤだ…! アイツ等が、来る――!)

いきなり騒ぎ始めたユンを落ち着かせようと、ルーチェは彼を力いっぱい抱きしめた。

(この迷い子も、不穏な気配を感じ取っているのでしょうか…?)

ルーチェの胸のざわめきは、次第に大きくなってゆく。

ビスク周辺で【混沌の使者】が現れることを感じ取ったオリアクスは、ユンを迎えに行くため、立ち上がった。

(…やつらが連れ戻そうとしてるのは、やはり――)

イーゴが混沌の使者に号令をかける直前。
オリアクスは間一髪、ビスクへと到着した。

彼の姿を見つけたユンが、助けて欲しいと泣き叫ぶ。

信じたくない話ではあったが、オリアクスの予感は的中していた。

混沌の使者が狙っているのは、まぎれもなくユンだったのだ。

どうすべきか、逡巡するオリアクス。

――そして。

「お前たち、ユンを守ってやってくれ! ヤツは未来の暗使! 俺たちの同志だ!
イーゴ様は思い違いをされている。
ユンは、闇に怯えるただの子どもでしかないッ!」

さらに、ルーチェに向き直ると、手を組むことを提案する。

「お前たちは、ビスクを守るため。
俺たちは、ユンを助けるため。
混沌の使者どもと、一戦交えようじゃないか…!」

ルーチェは元よりそのつもりだ、と答えを返し、ラル・ファクの信徒へ協力を要請する。

ユンを守ろうとするオリアクスを見ても、イーゴは余裕の笑みを浮かべたままだった。

「混沌の使者どもは、扉が開いている限り、小僧を追っていくらでもやってくる。
その絶望、その恐怖――それらは全てマブ神のお力となる!
オリアクス、お前もマブ神に絶望を捧げるがいい!」

【 決戦…そして… 】
イーゴの号令の元、混沌の使者――Chaos Age の生物たちが、ビスクの街中と周囲に次々と降り立った。
そして、皆がラスレオ大聖堂へと歩みを進める。

一致団結した冒険者達は、ミーリム海岸で、レクスール・ヒルズで、街中で、Chaos Age の生物と渡り合う。
次から次へと出現する魔にくじけず、彼らは戦いつづけた。

――そして、静寂が訪れた。

勝利した!
喜ぶルーチェとオリアクスだが、ユンは小さな頭を抱え込み、教会の隅で震えていた。
「まだだ…兄ちゃん、まだ来るよ、終わってなんか無い…!」

ユンの言葉を肯定するかのように、イーゴの声が響き渡る。

「小僧!貴様が戻るまで、ヤツ等は何度でもやってくる。
何度も! 何度も! 何度もだ!
まだ血をみたいか! まだマブ神へ恐怖を捧げたいか! 」

礼拝堂にこだまする、悲鳴。
あちらこちらで血が流れ、人が倒れてゆく。
終わりのない戦い。
果ての無い、戦い…。

ユンはゆっくりと立ち上がると、弱々しく頭を振った。
そして、ゆっくりとラスレオ大聖堂の外へ、歩みを進める。

「優しいみんなが倒れてく、そんなのイヤだ…!」

目の前にいる巨大な鎌を担いだ混沌の使者が、虚ろな瞳でユンを見ていた。
彼は1度、強く目を閉じると、決意したように顔を上げた。
「Chaos Age へ、帰る」

……と。

オリアクスが驚いた目でユンを凝視する中、彼はゆっくりと自分のことを語り始めた。

「オレ…忘れていたことを、全部おもい出したよ。
オレは、本当はココにいちゃいけないはずの存在…。
…Chaos Age から逃げ出してきたんだ。
どこまでいっても果てのない、暗闇がコワかった。独りぼっちで、血の匂いに包まれてた…!
やらなきゃいけない事があったのに、それがコワくて、コワくて…時空の狭間へ飛び込んだ…」

混沌の使者がユンを乱暴に担ぎ上げる。

「たくさん迷惑をかけてごめんなさい。
…でも、本当に楽しかった。
オレは…ううん。僕、兄ちゃんたちと過ごした毎日のこと…絶対に忘れない」
使者が、地を蹴り舞い上がった。
オリアクスは風に煽られながらも、ユンを掴むもうとして手を伸ばす。

「――ユンッ!待て、ユンッ!!」

ユンは、泣きそうな顔で、じっとオリアクスを見ていた。

「どうして…記憶を取り戻しちゃったんだろう。
どうして、このままでいられなかったのかな…?」

ユンは精一杯涙をこらえ、オリアクスを見つめつづける。
やがて、その姿は使者と共に、空へ吸い込まれていった。

「【混沌の扉】は閉じた! これで、もう逃げられまい…!
新たな闇が、覚醒するぞ…!
――マブ神に、栄えあれ!」

イーゴの声が、静かな街に響き渡った。

オリアクスは、やりきれない思いで、ユンが消えた空を睨み続ける。

「おかしいとは思っていた。
なぜアンデッドが寄ってくるのか、デスナイトどもが追い掛け回しているのか……。
だが、こんな別れ方はあるか?
…立派なマブ教徒に育てるため、俺が何時間説教したと思っているッ!」

空を掴んでいた手を引き寄せると、オリアクスは肩を落とした。

「Chaos Age に何がある…?
お前は、そこに何を残してきたんだ。

お前は未来のマブ教徒、未来の暗使。
なのに、俺が祭を成功させて、送り返しちまったのか…」

ルーチェはオリアクスの横顔を見つめ、そして空を見上げた。
Chaos Age へと、思いを馳せながら…。

■この時進行していたイベント内容■
【 混沌の使者 】

デスナイトやスカルパスに追われ続け、逃げ場を失ったユン。
記憶を取り戻しつつある彼は、祭の最中に見かけた人物との遭遇を恐れ、ムトゥームへ帰ることができません。

どこかに隠れなくては。そんな状況の中、何度か足を踏み入れたことがある街――ビスクのことを思い出します。
「あそこなら、助けてくれるかもしれない…!」
彼は気力を振り絞って、ラスレオ大聖堂へと向かいます。

ラル・ファク教は、疲れ果てたユンを受け入れ、保護しました。
ルーチェは彼に薬湯を飲ませ、奥で休ませます。

――その頃【ビスクの周辺】では、闇の気配が高まりつつありました。

・ ビスクの周辺で、闇の気配が高まっています。
・ 腕に自信のある方は、アナウンスに従って、ビスクの周辺を訪ねてみましょう。